建築デザイナー棚部裕貴氏「南長野歯科医院のデザインで考えたこと」

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「南長野歯科医院のデザインで考えたこと」 棚部裕貴

03-01.jpg「南長野歯科医院」は、2005年に完成、開業しました。開業から4年経ち、ドクターは患者さんの診察にますます忙しそうにしています。患者さんが多く集まる医院には、優れた「医院の運営」があることは言うまでもありません。しかし、それを支える器として、「医院の建築」もまた、重要な役割を担っているのです。「運営」と「建築」との相乗効果が生まれれば、更なる医院の発展が見込めるのです。ここでは、南長野歯科医院をデザインするにあたって、私が何をポイントとして考え、どのような実践をしたのかを紹介したいと思います。

2つのデザインのステップ

02-01.jpg南長野歯科医院は、長野市中心部から車で15分ほど南に下った、周囲に水田や白桃畑が広がる美しい農村の中に建っています。ドクターは東京で生まれ育ち、東京で勤務医をしていましたが、お父様が所有する長野の土地に医院を建設し開業するため、奥様と小さなお子様2人と共に長野に移り住むこととなりました。長野は、お父様の故郷ではあるものの、自身にとっては、この地で暮らした経験がないため、勝手のわからない土地でした。新天地に根を下ろして、家族と共に「長く暮らしていきたい」というドクターの想いを建物としてカタチにすることが、建築家である私の使命でした。
長く暮らしていくためには、長い間、医院が健全に運営されることが不可欠です。その実現のために、私がデザインのポイントとして考えたのは、まず、第1ステップとして、医院を地域に認知してもらい、多くの患者さんの来院を促すこと。次に、第2ステップとして、来院した患者さんに医院を気に入ってもらい、来院のリピートを促すことです。

第1ステップ?記憶に残る外観デザイン

02-03.jpg医院を地域に認知してもらうためには、通りがかりの人の記憶に残るような建築の外観をデザインすることが大切です。健康な状態で医院を通りかかった場合でも、その場に歯科医院があるということを記憶に留めさせておくことにより、いざ歯痛などで歯科医院に行く必要ができたときに、その場に歯科医院があったということを思い出させるのです。しかしながら、パチンコ店のように目立つだけの建物をデザインすればよいという訳ではありません。建築の外観は医院の品位や信頼にも関わります。
南長野歯科医院の場合、農村の景観を守るために、条例で建築や広告の表現が厳しく規制されました。そのため、デザインには、いくつかの工夫をしています。例えば、建築が風景に対して主張しすぎないよう、平屋建てとしています。壁面を白色に塗装したのは、周囲の伝統的な民家や蔵の漆喰壁と協調させつつ、水田の緑や黄金色、青空に映えさせることを狙ったためです。夜間は、住宅・待合室の白熱灯の柔らかな光と、診察室の蛍光灯のきらびやかな光が、コントラストを織りなしながら農村の静寂な闇夜に浮かび上がります。きちんと風景に馴染みながらも、人々の記憶に残る、そんな外観のデザインを心掛けました。

第2ステップ?「もてなし」の内部空間デザイン

03-02.jpg医院内部のデザインについては、ドクターと綿密な打ち合わせを重ねて決定しました。ドクターからの要望は、使いやすい動線といった基本的なことだけではなく、患者さんへの「もてなし」までに及びました。「もてなし」として私が建築デザインを通してできることは、患者さんに快適な居住性をもった空間を提供することです。快適な空間は、患者さんが少なからず持つ診療に対する緊張を和らげると考えています。
南長野歯科医院の目の前には美しい水田と白桃畑が広がっています。恵まれたロケーションをフルに活かし、診療室の窓はコンクリートの箱の目一杯、幅10mまで大きくとっています。患者さんは、美しい景色を眺めながら診療を受けることができます。待合い室を小さなコンクリートの箱として独立させたのは、診療室との距離をとることによって、患者さんの緊張を減少させるためです。待合室と診療室の間はガラスの廊下でつないでいます。ここは、天井もガラスできている、外部のような内部空間です。患者さんがここを通る時、一瞬だけ外に出たような雰囲気を味わい、気分転換することによって、緊張を紛らわすことができます。患者さんを癒しと驚きでもてなすことができる内部空間のデザインを目指しました。

ドクターと建築家のコラボレーション

33.jpg良い歯科医院をつくるためには、ドクター自身が明確に良い歯科医院像を描くことができるかどうかが大切です。そのサポートをすることこそが、他でもない、建築家の仕事です。ドクターと建築家との間で良いコミュニケーションがとれ、良い歯科医院像を共有できたときに、良い歯科医院が生まれます。歯科医院は、ドクターと建築家のコラボレーションによる作品なのです。南長野歯科医院は、ドクターにとって良い歯科医院となったに違いありません。同時に、建築家の私にとっても、評価を受け、世界中の人々に知ってもらえる契機となった、良い建築となりました。例えば、イギリスで出版される世界的デザイン誌「Wallpaper*」が優れたデザインを表彰する「Wallpaper* Design Award(Best Dentist)」を受賞しました。国内でも、グッドデザイン賞、日本建築学会作品選集など、いくつかの賞を受賞しました。また、イタリア、ドイツ、アメリカから、メキシコ、ブラジル、チェコ、セルビアまで、世界15カ国もの雑誌で紹介されました。待合室には雑誌の切り抜きが飾られており、ドクターも私の躍進を喜び、楽しんでくれているようです。そういった意味でも、ドクターにとっても、私にとっても良いコラボレーションができたと思います。

<筆者プロフィール>
棚部裕貴/建築家
1972年 東京生まれ。
1999年 日本大学理工学研究科博士前期過程建築学専攻修了。
2001年 一級建築士事務所ヒロ・デザインスタジオ設立。
2005年 作品「南長野歯科医院・住宅」が完成。JCDデザインアワード、グッドデザイン賞、INAXデザインコンテスト、Wallpaper* Design Award、東京建築賞最優秀賞、日本建築学会作品選集を受賞。国内外15カ国の雑誌で紹介される。

棚部裕貴ウェブサイト
http://www.hirokitanabe.com


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